膠原病とは ~若い女性から、高齢男性までの幅広い病気~
1.膠原病という「病気の枠」
膠原病は1942年アメリカの病理学者であるポール・クレンペラー(1887-1964)によって初めて命名された疾患群で、英語ではcollagen diseaseやAutoimmune diseaseと呼ばれており、表1のような特徴があります。全身の組織に起こりうる疾患で様々な検査を駆使して診断されます(図1)。欧米では、膠原病疾患はRheumatologyの学問の範疇と理解され、研究者は自らのことを「Rheumatologist:リウマチの研究をする人」と呼びます。
2.膠原病に含まれる病気
全身性エリテマトーデス、リウマチ熱、強皮症、皮膚筋・多発性筋炎、結節性多発性動脈周囲炎、関節リウマチの6疾患が古典的膠原病と呼ばれます。現在ではこれらの疾患に加えて、シェーグレン症候群、混合性結合組織病、成人スティル病、ANCA関連血管炎、ウェゲナー肉芽腫症を中心に表2のような疾患をいわゆる膠原病と呼んでいるかと思います。
わが国では厚生労働省によって特定疾患(いわゆる「難病」)に指定される膠原病疾患が多く、公費補助対象疾患とされています。
3.「膠原病」は病名ではない
かつてクレンペラーは「膠原病」が「診断名」として安易に使われすぎることを懸念し、病理学的に理解が困難な症例に対するくずかご的診断名ではないと警告しました。なんだかよくわからない病気は「膠原病」ではないかと、医師ですら安易に使いがちなのです。
このような経過から、欧米では現在「膠原病」の名称が論文や教科書で使われることはなく「結合組織疾患」(connective tissue disease)や「リウマチ性疾患」(rheumatic disease)という名称が使用されます。しかし、わが国では「膠原病」の語呂がよく、言いやすいためか現在でも広く定着しています。
4.膠原病は「自己免疫疾患」
いわゆる膠原病患者の血液の中には、自身の構成成分と反応してしまうリンパ球(自己反応性リンパ球)や抗体(自己抗体)といったタンパク質があることが分かり、これが膠原病という病気を起こすと考えられています。したがって、膠原病の治療には、病気を起こすリンパ球の働きを抑制し、抗体が作られるのを抑制するために、副腎皮質ホルモン(ステロイド)や免疫抑制薬などが用いられます。
5.膠原病の治療
膠原病は、原因が不明で治療法のない「難病」というイメージが強くもたれていました。
4でのべたように暴走した自己攻撃を止めることが多くの膠原病疾患における治療目標です。それにはステロイド薬が使われ、近年では様々な免疫抑制剤が発見され使用されています。さらに、人工的に作ったモノクローナル抗体といった、狙ったタンパク質を直接認識し破壊できる治療が使用できるようになりました。近年の医学の進歩によって、膠原病の生命予後は大きく改善しました。
もっとも予後が悪いといわれた全身性エリテマトーデスでは、ステロイド治療が導入されて後、90年代になってからは5年生存率が95%以上と劇的な改善がみられています。さらに、海外でしか使用できなかった薬が使用できるようになり(ヒドロキシクロロキン;プラケニル®)ますます治療の幅が広がっていきます。
関節リウマチでは、炎症を引き起こすタンパク質と言われるTNF-αに対するモノクローナル抗体(レミケード®など)や、IL-6の受容体に対する抗体(アクテムラ®)などが開発され、我が国でもすでに大きな成果を上げています。皮膚筋炎に対する、大量ガンマグロブリン療法は近年保険適応がみとめられ、ステロイドを使用しない治療法もぞくぞくと開発されています。さらに、もともとあった薬剤の膠原病疾患への治療適応拡大といった医療界の変革が起きています。
6.膠原病の現在の問題
生命予後が全般的に向上する一方で、依然としてすべての疾患の治療法が確立しているわけではないため、死亡率が高い、または重い障害を残すような難治性の病態に対する治療法の確立が待たれます。このような難治性病態としては、全身性エリテマトーデスの中枢神経症状、血管炎症候群における肺胞出血、強皮症の急性腎不全(腎クリーゼ)、ステロイド抵抗性筋炎、膠原病に伴う間質性肺炎や肺高血圧症(これはさまざまな薬ができ劇的な予後の改善が近年認められましたが)、劇症型抗リン脂質症候群、難治性のリウマチやそれともなうアミロイドーシスなどがあります。
また、膠原病の治療薬によって誘発される障害もあり、ステロイド薬による骨粗鬆症、日和見感染症、糖尿病、大腿骨頭壊死症、動脈硬化症の誘発や、悪性腫瘍の誘発などが大きな問題となってきています。
7.最後に
ヒトゲノムの解読が終了しさらに病気の発症や治療反応性に関わる遺伝子が解明されれば、患者さんの個々人に合わせたオーダーメイド医療が実現するでしょう。膠原病疾患はその中でも、もっとも積極的に解析が行われている分野の一つで、我々リウマトロジストは新しい治療を期待しております。
表1.膠原病の特徴
- 原因不明
- 多臓器疾患:腎臓、肺、心臓、神経、筋、消化器、眼、血液、皮膚、関節
- 年齢層が広い:どの年代でも起こりうる
- 全身性炎症性疾患:発熱、体重減少、倦怠感、易疲労感
- 慢性疾患:再発と寛解を繰り返す
表2.免疫・膠原病内科の対象疾患
- 全身性エリテマトーデス
- 高安動脈炎(大動脈炎症候群)
- シェーグレン症候群
- 変形性関節症
- 強皮症(全身性硬化症)
- 側頭動脈炎
- 強直性脊椎炎
- 骨粗鬆症
- 多発性筋炎および皮膚筋炎
- 顕微鏡的多発血管炎
- ライター症候群
- 痛風および偽痛風
- 関節リウマチ
- 過敏性血管炎
- 乾癬性関節炎
- 再発性多発軟骨炎
- 悪性関節リウマチ
- ヘノッホ・シェ-ンライン紫斑病
- 反応性関節炎(ライター症候群)
- サルコイドーシス
- 結節性多発動脈炎
- 混合性結合組織病
- 抗リン脂質抗体症候群
- アレルギー性疾患
- ウェゲナー肉芽腫症
- ベーチェット病
- リウマチ性多発筋痛症
- 原因不明の関節疾患
- バージャー病
- リウマチ熱
- 成人スティル病
- 家族制地中海熱
- 自己炎症症候群
- 脊椎関節炎
- 付着部炎
- 腱鞘炎
図1 膠原病疾患で見られる画像所見
A
A:全身性エリテマトーデスにみられる爪周囲潰瘍。
B
B:強皮症にみられる肺高血圧患者さんにおける、肺動脈の突出像。
C
C:ANCA関連血管炎における脳の白質病変。
砂川市立病院雑誌「ひまわり」に掲載文章を一部改変して公開しました。